Anton Corbijn 「ラスト・ターゲット」を語る
LGBT アムステルダマー アムステルダム アムステルダム国立美術館 アート インタビュー エリック・ケッセルス オランダ オランダと日本 オランダのアート オランダのニュース オランダの伝統 オランダの政治 オランダの政治家 オランダの自然 オランダの選挙 オランダらしい風景 オランダ映画 サクラ シンタクラース スキポール空港 セントニコラース ダッチ・デザイン チューリップ ヒルト・ウィルダース ピート・ヘイン・エーク ファン・デル・ラーン市長 フィリップス フェミサイド ブラックピート マレーシア航空機撃墜事件 ロッテルダム ワデン海 ワデン諸島 事件 仁王像 北海 即位式 安楽死法 岩屋寺 水泳検定 渡り鳥と光害 王家 着衣水泳 移民

U2、デペッシュモード、トム・ウェイツ、ローリング・ストーンズなど、著名ミュージシャンのポートレート写真で知られるフォトグラファー、アントン・コービン。
最近では、映画監督としても活躍する氏の監督2作目、「ラスト・ターゲット」(原題「ジ・アメリカン」)が、日本でも7月2日から上映されている。
雑誌PENのため、日本での上映に先駆けて話を聞いた。
氏から話を聞くのは、これで2度目。前回は、監督デビュー作「コントロール」が完成したばかりの2007年で、その時も今回と同じデン・ハーグのホテルで待ち合わせた。
肺炎でしばらく入院していたと、少し蒼白な顔でやって来た彼。まだ本調子ではないとのことだったが、映画のこと、写真のこと、そしてデン・ハーグでの生活をたっぷりと語ってくれた。
ラスト・ターゲットとジョージ・クルーニー
「ジョージ・クルーニーが殺し屋を演じる、全米ナンバーワンのハリウッド映画」
そう聞いて、銃弾飛び交うスピーディーなアクション映画を期待した人は、意外な展開に驚いたかもしれない。
「全米ナンバーワンとはいえ、アメリカでの反応はさまざまだった。”これ、アクション映画じゃないじゃないか!!”と怒る映画館もあったらしいよ(笑)」
確かに、映画の中での銃声は数えるほどで、ほとんどのシーンは、クルーニー扮するジャックの静かな心理描写。コービンの言葉を借りれば、この映画の見どころは、ひとりの男がその人生を変えようとする姿。そしてその心の動きが、牧師と娼婦という、社会の最も対極的な存在のキーパーソンとの関係の中で展開していくところなのである。
これまでにはない暗い役柄を演じたクルーニーの起用については、「映画の中では、何もしていないジャックを何分も見せることになるので、沈黙を個性的に演じられる名優が必要だった」と説明する。
自ら監督やプロデューサーでもあるクルーニーの存在は、撮影前のコービンを少々不安にもさせたらしい。「ジョージのキャリアは長く、積み重ねた経験と知識から打ち出す判断はとても適格。一方、監督の僕は、撮影現場スタッフの中で映画経験が一番浅い。心配はあったね。撮影中何度か、”自分ならこうする”と思うことがあったとジョージは言っていた。でも最終的には、”君の判断は正しかったよ”と言ってくれて、直感に頼って映画を作るっていうのも、あながち間違いではないと確信した」
一作目の成功がまぐれではなかったことを、確かめたかった
コービンの第一作目「コントロール」は、今作とはあらゆる点で異なっている。
モノクロで、実在した人物を描いたドキュメンタリー風のインディーズ。しかもその人物とは、コービンがオランダからロンドンへと移り住むきっかけとなった英国のロックシンガー、イアン・カーティスだ。写真と映画という大きな違いはあるにしても、その世界観は共通している。
一方、今作は、ハリウッド仕立てのフィクション映画。
この違いを、彼はこう説明する。
「前作では、”この成功はまぐれかもしれない”という思いがあった。だからこそ今回は音楽という慣れ親しんだフィールドから離れ、もっと深く、自分にとって映画とは何か問いかけた。そして自分には何ができるのかを見極める意味も含めて、敢えて前作とは全く異なる作風を目指した」
映画と写真
2作目の映画が完成したあと、「3作作ってみて、映画を続けるかどうか決めたい」といろいろなところでインタビューに答えていたので、改めて聞き直してみると、「やっぱりもっと作る!」と即答。「もちろん写真もね」と続けた。
「写真では、自分がどの辺まで到達できるのか予測ができる。
だが、50才過ぎて始めた映画にはまだ未知の領域だらけ。冒険と発見の連続だ。しかし何をやるにしても、発見がなくなって、成功の法則にしたがって機械的に取り組まなければならなくなったら、僕は続けてはいけない。映画屋、写真屋になるのはごめんだ。常にイノベートを目指す。それが僕にとって創造するということだから」。
企画段階から、大勢の人が関わりチームで創り上げる映画という大規模なメディアを体験したあと、彼は写真製作の魅力を再発見した。
「たった一人でカメラを持って世界をまわり、僕をインスパイヤーするクリエーティブな人たちと紅茶を飲み、そのあとポートレートを撮る。写真というメディアは、シンプルだ。それがどれだけ自分にあったものかということを、映画制作を通して再発見した」。
グラフィック・デザインやステージ・デザインも手がける多才なコービンの日常は、極めて多忙だ。
「いつも、やりたいことが山積みで順番を待っている。あれもこれも、と、アイディアが生まれてきて、いつもそのことばかり考えている。さすがに自分でも呆れてしまうほど、全く落ちつくことのできない日々を送っている」と苦笑。
すでに、3作目の映画の構造もできあがっているらしい。