ピート・ヘイン・エークのレクチャー・プロジェクト

プロダクトデザイナーのピート・ヘイン・エークが企画する「レクチャー・プロジェクト」は、世界で活躍するクリエーターを招く講演会シリーズだ。
初回の登壇者は、ポール・スミス。
ピートの自社ビル内イベントスペースで行われた。
参加は無料で、応募者700人強の中から先着450人が聴講した。
ピートは、一昨年床総面積約1万2千平方メートルという巨大な建物に拠点を移してから、これまでのデザインの仕事に加えて、ショップやレストランの運営、イベントのオーガナイズなど、幅広い文化活動を展開している。
自身クリエイティブ系実業家のパイオニアとして、手探りで行く手を切り拓いていった彼は、クリエイティビティと企業運営という異なる領域をどう両立させるかというテーマについて常々考えを巡らせている。
不安定で混乱した時代の中で、芸術や文化が持つ意味とはなにか。
クリエイティブ系実業家が果たすべきとは?
クリエーターの企業家精神とは?
クリエーターは、自分の土壌をどのように耕していけばよいのか?
こんなテーマにヒントを与えてくれる人物の話を聞こうというのが、レクチャー・プロジェクトのコンセプトだ。
ちなみに、第二回目はスティーブ・ジョブスを考えていたのだそう。

司会を務めるピートは、いつもと全く同じヨレヨレの雰囲気。そんな彼に紹介されて壇上に上がったポール・スミスが「レクチャーなんて大それたものではなく、ただの僕の経験談ですからね」と笑顔で語り始めると、そのニュアンスの妙とユーモラスな口調から会場にどっと笑いが起こった。
すっかり和んだ雰囲気の中で、スミスはたくさんのスライドを見せながら、デザイナーになったいきさつ、ショップ展開、ショー、仕事場、インスピレーション源、ブランディングなどについて語った。
具体的なアドバイスも満載だった。
「クリエイティブな実業家にとって重要なのは、収入源を確保しながら自分のクリエイティビティをしっかりと開花させていくこと。いつでも既存のルールを破るスペースを、どこかにしっかりと確保しておくことです」
そう言ってアレクセイ・ブロドヴィッチがアートディレクションを手がけた雑誌を例にあげた。
「インスピレーションとは、どんなことがらかも見いだせるはず。それができないとしたら、あなたの見かたが悪いんです」と言って、彼の斬新な作品の数々と、そのインスピレーション源となったスナップ写真やカラーパターンなどを紹介。
また、自分のこれまでの広告写真を紹介しながら「雑誌に広告を載せる機会のある人は、広告で何を伝えたいのかを今一度考え直してみるといい」と、具体的に何をどう考えてみるべきかを説明したり。
そして「ネバー・アシューム」(決めてかかるな)、「何もしなければ何もできない」など、自分がスローガンとしてきた哲学を、柔らかな口調で語った。

ダンディな英国紳士ポール・スミスをゲストに迎えたバンカラなピート(左)。
並ぶ姿は対照的だが、卓越したクリエーターであり実業家、独創的でいつも自然体、強い社会性を持っているという点で共通するふたりは、とても意気投合しているように見えた。
