安楽死クリニック、活動開始
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2012年3月2日
世界に先駆けて安楽死を合法化したオランダで、3月1日、世界初となる安楽死クリニックが活動を開始する。
安楽死の執行は医師にとって義務ではないことから、法で定められた条件をクリアした患者でも必ず安楽死できるとは限らない。
年間約1万件ある依頼のうち、実際に安楽死できるケースは三分の一程度。宗教的な理念などさまざまな理由から、安楽死執行を拒否する医師は多い。
この現状を受けてNVVE(オランダ自由意志による死協会)が行った調査から、重い持病、アルツハイマー、生きることが耐えがたくなるほど重症の精神疾患など、不治の病を抱えていても、余命の短さを特定できなければ安楽死が施されないケースが多いことがわかっている。そして、そのうちの相当数の人々が、家族による自殺ほう助、電車へ飛びこむなど無関係な人々を多数巻き込む方法、あるいは遺族にとって非常に辛い方法で自殺を遂げている。このような人々に、尊厳のある死を提供することが安楽死クリニックの目的だ。
同クリニックでは、オランダが法で定める安楽死法に則ってプロセスが進む。
申し込むことができるのは、オランダに居住し、オランダの健康保険に加入している人。
この条件を満たす外国人は、医師団と十分なコミュニケートをとれる語学力も必須条件だ。
長い診断プロセスを経て死以外の道がないと認定されると、3日がかりで安楽死が準備される。
精神科医、ソーシャルワーカーなどから必要なサポートを受けることができるが、当面はスタッフが患者宅に出張する形だ。
当局は、年間の申し込みは約1000人と予測している。
「安楽死が認められてさえいれば、娘は尊厳のある死を遂げられたはず」
「娘は、カギをかけた病室で、ビニール袋を頭からかぶって首をベルトでしばり、ぬいぐるみを抱きかかえて自殺しました。彼女が生き続けていくことができないことは、誰の目にも明かだった。もしこのクリニックのような機関の助けを借りることが出来ていれば、娘をあんな寂しい方法で死なせずにすんだはずです。家族に囲まれて、人間として尊厳のある死を遂げられたと思います」
余命が短いことを明らかにできる病気ではないために安楽死は認められず、精神病院の個室で自殺した娘を持つ老婦人はTV番組のインタビューでこう語った。
「安楽死という一つの治療法だけにフォーカスするべきでない」という反論
このクリニックに異論を唱える医師団体も多い。その理由は、「正しいプロセスを踏めば、患者とつきあいが長く信頼関係を持つホームドクターたちが安楽死を行うことができる」、「医師として一つの治療法(安楽死)だけにフォーカスせず、他の可能性を探り続けることが重要」などだ。
同時に、いざという時点になって、自分のホームドクターが安楽死を行わない主義であることを知り戸惑うことのないように、安楽死を視野に入れている人は、ホームドクターを選ぶ段階で確認しておくことが重要だとアドバイスしている。
世界に先駆けて安楽死法を実現させた、オランダ人気質
オランダでは、2002年春から安楽死法が施行されている。
この国が安楽死法制定第一号になった背景には、独特の精神性や世代性、文化が影響しているのだと、NVVEの広報担当者から聞いたことがある。
ひとつは、欧州南部のように教会の影響が絶大な社会ではなかったこと。特に安楽死法の制定に大きく貢献したベビーブーマーは、信仰の縛りからも比較的自由で、主張が強く、進歩主義的な政治を生み出した世代でもある。
もうひとつは、オランダには自己決定権、自主尊重、自主権に強くこだわる「自分が決める、自分で決める」という精神性が歴史的に根付いていたことだ。
これらの特徴を備えた時代や人々が生み出した政治、そして現場の声を迅速に反映させるボトムアップの社会構造の中で、タブーを打ち破る激しい論争を粘り強く繰り返した末に誕生したのが安楽死法。お隣のベルギーでも、オランダの約半年後に同法が制定されている。
一方、運命が決めるはずの命に、人の手がここまで介入することの是非を問う論争は今でも続いている。「全ては神の思し召し」という宗教的な考えが人々を幸せにするとは限らないことはわかっていても、これまでの常識や倫理観を根底から覆してしまうような革新的な考えが、そう容易には受け入れられるはずがない。
いつになっても論争の対象であり続ける安楽死法だが、今後も少しずつ論点をシフトさせながら、時代や社会に最適化された形を模索し続けていくに違いない。