北朝鮮レストラン (from update NL)

この冬、アムステルダムに、ヨーロッパ唯一の北朝鮮レストランがオープンした。店名は「ピョンヤン」。
レストランだけではなく、北朝鮮の映画を上映したり、北朝鮮への旅行の手配もするなど「北朝鮮文化センター」の役割も担っている。

料理は、焼き肉などの韓国料理、そして江戸前寿司など日本料理もとりいれたかわった構成のコースメニュー。北朝鮮ならではの伝統料理が食べられると聞いて行った私はがっかり・・それでも、北朝鮮の女性達が繰り広げる異国情緒たっぷりのディナーショーは楽しかった。

このレストランで働く北朝鮮人は9人。
マネージャーの説明によると、ビザの手配の関係から、中国経由で彼らを呼び寄せたとのこと。シェフは、東京で働いていた経験もあると言う。女性達はオペラ歌手並に歌がうまく、相当の英才教育を受けたことをうかがわせた。しっかりと作り込まれた満面の笑みを崩すことなく、給仕と舞台の両方を上手にこなす彼女たちからは、強いディシプリンを感じた。
ピョンヤン出身の女性と仕事の合間に少しだけおしゃべり。
「ホームシックは?」
「勿論あります。でもアムステルダムはとても楽しいです。人もオープンで親切ですし」
「外国で働くのは初めてですか?」
「ここに来る前は中国で働いていました」
「どのくらいここで働く予定ですか?」
「一応3年ということになっていますが、気に入れば長くいようと思います」
どのくらいここで働くかは自分の気持ち次第、という答えは意外だった。北朝鮮の人々が自由に外国で暮らせるとは想像していなかったからだ。
9人の従業員たちは、「まだアパートが用意されていないので、最寄りのホテルで生活している」とのことだった。

「ピョンヤン」という店名は、北朝鮮政府がアジア諸国で展開していると言われるレストランチェーンと同じ名前だが、マネージャーは(2月始めの時点では)「関連はない」と言っていた。一方、北朝鮮政府によるチェーン展開がアムステルダムにも拡張されたという報道もあった。
マネージャーのレムコ・ファン・ダールはこう語る。
「北朝鮮政府とある種の関係を持っていなければ、このような店をやることはできない。我々も、政府とはそれなりの関係を保っている。だが街で噂されているように、北朝鮮政府が製造している偽ドル札の流通の拠点になっているとか、スパイ活動の拠点になっているとか、そんなことは一切ない。そもそも、このような活動を始めたきっかけは、ビジネスパートナー(オランダのホテルチェーン経営)と一緒に、北朝鮮に旅行に行って魅了されたこと。これまでの想像とは違って、当たり前だが、この国にも普通の人たちが普通に生活していることを目の当たりにしたとき、この国をプロモートしたいと思い、ふたりで財団を設立した」。
このレストランは、財団の活動の一環である。

このレストランをオープンする話が持ち上がってから、実はすでにかなりの年月が経過している。

店舗探しは難航し、結局郊外に建つ閉鎖された集会所を再利用することになった。内装も手作り感いっぱいで、プロパガンダアートが壁中に貼られているだけ。ステレオタイプな感想だけれど、そのそっけなさも北朝鮮らしく「異国情緒」を醸し出していた。

店内は、新しいもの好きのオランダ人で大盛況。
私の他にも、いかにも取材風のひとりで来ている人が数人いた。
オランダ国内外のラジオ、新聞、そしてテレビで取り上げられ、脚光を浴びている。
みんな、興味津々なのだ。

マネージャーとドアマンは、気のいいアムスっ子だった。
そして、働く北朝鮮の人たちも、一生懸命で楽しそうに見えた。
人の話を疑い始めたらきりがない、と思った。詮索したところで、何がわかるわけでもないのだ。

こういう店ができるのは、この街ならでは・・・
それが、取材を通して「分かった」唯一のことだった。

(撮影2012年2月3日)