平均身長世界一の国で(WORLD FOOD FESTIVALにて) 

(左から:Marije Vogelzang, Arne Hendriks, Sita Bhaumik, Susana Soares, Koert van Mensvoort)

平均身長世界一の国で(WORLD FOOD FESTIVALにて)

小柄じゃ、いけませんか?

あるデータによれば、オランダ人男性の平均身長は183センチちょっと。
女性はほぼ170センチ。オランダ人は男女とも、平均身長の高さでは世界一だ。

私は164センチ。オランダ基準では小柄な方。夫は174センチで、オランダ人男性としてはかなり小さめ。そして息子は、いつもクラスで一番小さい。
やせ型だが非常に筋肉質で活発、病気もしない健康児である。

何年か前、息子の定期検診で保健所に行った時のこと。
一通りの測定をした後に保健婦さんが、深刻な面持ちで、息子の予想成長曲線の表を差し出した。そして、このままでは、息子の身長は170センチそこそこしかいかないだろう、と言う。
「主人も私も小柄なので、170センチって妥当な感じもしますけど・・・」というと、「一度ホームドクターと相談してみたら?もしかすると成長ホルモンが足りないのかも」と保健婦さん。
「いやいや、健康そのものですし、170センチで何の問題もありません」と私。
それでも「いや、でも男性の平均は183センチ以上よ。彼の年代の平均はもっと高くなるはず。相談するだけしてみたら?」と押されて驚いた経験がある。
面倒になりそれ以上言い返しはしなかったが、心の中では、あなたたち巨人と比べるな!と叫んでいた。

・・・と、ここまでは前置き。

牛乳のかわりに、ホウレンソウジュースを!

先日、9月18日から10月27日までロッテルダムで開催されているWORLD FOOD FESTIVALに行ってきた。文字通り、「食」をさまざまな角度から考察するフェスティバルだ。

「食のデザイナー」として知られるMarije Vogelzang(マライエ・フォーゲルサング)が、同フェスティバルではキューレーターとして大活躍した。
「食」というテーマの周辺で活躍するデザイナーやアーティスト4人を招いて、ディベートも開催。将来の食やその問題点、クリエーターに果たせる役割などを論議した。

Arne Hendriks(アルネ・ヘンドリクス)も参加していた。とてもユニークなアーティストで、現在は「The Incredible Shrinking Man」というプロジェクト作品に取り組んでいる。この中で彼は、地球上にある資源や食糧は限られていて、70億人を超える世界人口をまかなうには到底たりない。都市では居住空間も足りない今、人間はより短身になり環境への負荷を減らす努力をするべきだと訴える。
科学的なデータと創造力をユーモラスにミックスしていて、時には思わず吹き出してしまう話だったが、筋の通ったメッセージがしっかりと受け手に届く興味深いプロジェクトである。

彼はこう説明する。
「なぜか現代の人は、長身なのがよいことだと感じているし、それが健康の象徴だと考えている。お母さんたちは子供に、”ほら、いっぱい牛乳飲まないと背が伸びないわよ”と言うでしょう?長身がよいものというアイディアは、子供のしつけにまで浸透している。例えばみんなが、短身のほうが環境と地球のためによく、よりサステイナブルであると考えをシフトしたら、”ほら、もっとホウレンソウジュースをいっぱい飲まないと(ホウレンソウには成長を抑制する成分が入っているそう)大きくなりすぎちゃうわよ!”と言うようになるはずだ」
人の身長は、さまざまな要因によって決まる。
彼の調査によると、そのうち、食べ物の影響による作用は約15%だ。

彼がスピーカーとして参加したカンファレンス「TED」の中でも、人の身長が伸びると、その容積や重量は倍増していくことを説明している。そして、必要とする資源や食糧、空間は倍々増すると言う。

何かを大規模に変革するためには、最終的には、政治、教育、産業といったものがグローバルレベルで一丸となることが不可欠。
「僕たちアーティストやデザイナーにできることは、”エリートの趣味”の範疇を超えられないかも知れない。だが、それでも人々が当たり前と信じている固定概念に問いかけ続け、再考する機会をつくることはできるし、それは意義のあることだと思う」とまとめた。

息子の成長障害を疑ったあの保健婦さんにも、彼らの言葉を聞いてほしかった。

かなり前に書いた、マライエ・フォーゲルサングに関する記事↓