クリエイティブディレクターが提唱する「失敗のススメ」=エリック・ケッセルス

少し前、6月15日売りのPEN「クリエーターの愛用品」特集の記事をつくるために、クリエーティブエージェンシーKesselskramerの主宰者エリック・ケッセルスから話を聞いた。今回は、その時のこぼれ話。

エリックと言えば、世界中の蚤の市などで見つけた写真から新たな物語を紡ぎ出す達人。”USEFUL PHOTOGRAPHY”, “IN ALMOST EVRY PICTURE”などの写真集シリーズとして出版されているほか、展覧会も開催されている。
最近では、「アルバムビューテー」という家族アルバムをテーマにした彼の巡回展が、宮城県塩竃で開催されていたらしい。

エリックの言い分はこうだ。

世間に浸透しきった価値観を疑うことなく受け入れ、おまけにそれにがんじがらめになっていると「完璧中毒症」になる。
その最大の弊害は、新しい価値観や世界観を生み出さなくなること。そして「不完全さ」に対する不寛容さを増長することだ。


長年、「もっと失敗しようよ」と言い続けてきたエリックは、最近その哲学をとてもわかりやすく、しかもブラックユーモアたっぷりに綴った「FAILED IT!」(PHAIDON)という本を出版した(英語)。
失敗を嘆くかわりにインスピレーション源にし、これまでになかったユニークなものを生み出していこう!と、歴史上の偉人たちの言葉も交えて説く、失敗のススメとも言える一冊。
「真のクリエーションのためには、大恥をかくことをおそれるな!」という彼の痛快な呼びかけに、思いきり背中を押されてみたい。

脱!完璧中毒症 Fail to Find Inspiration

アートディレクターやデザイナーなど、クリエーティブな仕事に携わる人に向けて書かれたというこの本。各チャプターは、短い文章と写真で構成されている。


そのひとつ「巨大な指の襲撃」は、カメラレンズの前に指がつきだしてしまった写真がテーマだ。
スマフォやコンデジで写真を撮る時、うっかりレンズ前に指が覆い被さっていたという経験は誰にでもあるはず。カメラの小型化が進むにつれて、このリスクも上がるというものだ。
しかし、こうして改めて大きさや肌の色、構図もさまざまな指の写真を並べてみると、なにやら今までには見たことのないシュールなコンテキストが立ち上ってくる。この新しい感覚の誕生こそが、失敗のポテンシャルだと彼は説くのだ。


・・・このような写真は、近年消去されることはあっても保存されることは希。(中略)だが、パーフェクトではない写真というものは、あとになってはじめて、あながち失敗とは言えないことがわかる。それこそが「別もの」の誕生である・・・

当たり前でないものを見る時のほうが、人のファンタジーは活発に働く。
見る人の内面に何も起こさないまま、そこそこの心地よさとともに通り過ぎていくクリエーションは退屈でしかない。
そして、「そんな退屈なものが良いといわれる世間の価値観も、疑ってかかれ」と、彼は主張する。

この本の紹介用にもポートレートを撮らせてねと頼むと、「じゃあ、まるで何事もなかったかのような顔して、本は逆さまに持たないとね」とエリック。
うんうん、そうしよう!と彼のデスクがある2階へ移動。
さあ、とカメラを構えて数枚撮ったところで同僚ふたりが上がってきて、カメラを構える私を見つけてびっくり!私もびっくり!
せっかくなので、これも掲載しておく。