The Frozen Fountain

The Frozen Fountain

ダッチデザインが好きでアムステルダムを訪れたことがある人なら、「フローズン・ファウンテン」を知らない人はいないはず。1992年のオープン以来、ダッチデザインの殿堂であり続けるインテリアショップの老舗だ。そのふたりのオーナーのひとりディック・ダンカースさんが、先週亡くなったと新聞に掲載されていて驚いた。67歳。事故だったらしい。

彼の友人であるデザイナーのピート・ヘイン・エークが、スクラップウッドで棺を作るそう。ピート同様、モノを無駄にするのが嫌いだったというディックさんに相応しい棺になることだろう。まだ駆け出しだったピートの作品を真っ先に買いに来てくれたディックさんとは、かれこれ26年来の友人だったらしい。

デザインへの愛情と冒険心溢れる、インテリアショップの老舗

フローズン・ファウンテンでは、ものを売るだけではなく、プロダクトの企画制作も行っている。無名の新人時代にいち早くこの店で紹介され、のちに大御所となったデザイナーも多い。
さまざまな形でオランダのデザイン界に貢献してきたオーナーさんたちと言葉を交わすたびに、「デザインに対する愛情と冒険心」こそがこの店のウリだと感じていた。

残されたもうひとりのオーナーであるコック・デ・ローイさんは、NRC新聞の取材に対して、ショップは存続させると話している。ふたりはこれまでも定期的に、どちらかがいなくなってしまった後のことを話し合っていたと言うが、まさかこんなにも突然その日が来るとは想像していなかったに違いない。

私がライター・フォトグラファーの仕事を始めたのは、’90年代後半のこと。ダッチデザインが一世を風靡していた頃で、ハイス・バッカーを始め、ピートやリチャード・ハッテン、テヨ・レミ、ヘラ・ヨンゲリウスなど、「ドローグ・デザイン」の旗手たちのインタビュー記事を書き続けていた。
今だから白状するが、当時の私にはドローグ・デザイン特有のコンセプチュアルで哲学的な「デザイン言語」がちんぷんかんぷんだった。それでも仕事のためにと一生懸命見て読んで、(そしてファンになって)、かなりの苦行の末にようやく彼らのデザイン観がわかるようになった。
そんな私にとってこのショップは補習校のような存在で、しゅっちゅうのぞきに行っては親切なオーナーさんたちに作品を解説してもらっていた。

2005年の取材では・・・

随分前になるけれど、ディックさんのインタビュー記事を作ったことがある。その中で彼は、「家具や雑貨なんて所詮モノにすぎないが、どうせならポジティブなスピリットのあるモノに囲まれて暮らしたいよね」と言っていた。「常に”今”を語る作品を扱っていきたい」とも語り、「”今”は刻々と変化するから、僕らのコンセプトは据え置きでいいんだ」と笑っていた。

私の仕事場には、フローズン・ファウンテンで買ったものがたくさんある。
これからも、大切に使い続けよう。