新聞のデザインとは

新聞のデザインとは

アムステルダムの話題に特化した日刊紙Het Paroolが、2年連続で世界のベスト新聞デザイン賞を受賞した。これは、毎年アメリカの「ニュースデザイン協会」がデザイン性の優れた新聞に与える賞で、同紙の知的なタイポグラフィと明快な情報の階層化を高く評価。今年は、ドイツのDie ZeitとアメリカのThe New York Timesと並ぶ受賞となった。
2年連続受賞という快進撃の立役者は、2016年に同紙のリニューアルデザインを手がけたポーランド人デザイナーJacek Utko(ジャチェック・ウツコ)さん。ワルシャワに拠点を置く新聞デザインのエキスパートで、世界各国の新聞を手がけている。


そんな彼に、新聞のデザインとは一体何なのかを聞いてみた。

新聞のデザインとは、コンテンツのデザインのこと

「新聞のデザインとは、単刀直入に言えば、コンテンツをデザインすること」
厳格な一貫性を守る中でも豊富なバリエーションが求められる新聞デザインでは、種類も重要度も全く異なる多数の要素をわかりやすく階層化するための高度なオーガナイズ能力が求められる。同時に、文字が主体であるため、タイポグラフィを熟知している必要もある。そしてウツコさんが決めたデザインのテイストやルールに従って、日々紙面を作る各紙のハウスデザイナーとうまく意思疎通するための、高いコミュニケーション能力も不可欠。聞くほどに、感性重視のビジュアルを生み出すグラフィックデザインとは全く異なる仕事であることがわかる。大学では建築を専攻したという彼は、「構築的な思考が、この特殊な仕事に向いている」と自信を分析する。

「新聞業界は、世界中どこを見ても極めて厳しい状況。僕のクライアントたちも皆、新しい読者の獲得に必死だ。デザイナーに求められるのは、決して見栄えのいい新聞を作ることではない。既存の読者はしっかりキープしつつ、新しい読者を獲得していく紙面を作ること。そして、可読性をあげて、一面から最終ページまで、ロジカルで美しいメリハリを持った流れを生み出すこと。そのために必要なストーリーの方向性やストラテジーをアドバイスすることもまた、僕の仕事のひとつだ」
言ってみれば彼は、「新聞コンサルタント」だ。

大切にしたのは、「折衷主義」というデザインスタイル

Het Paroolのデザインの特徴は、エクレクティック。折衷主義だ。
「アムステルダムに相応しい新聞とは?と考えた末にたどり着いた。自由でオープンマインド、クリエイティブ、アーティスティックといったこの街のイメージを反映したスタイルだ。これを体現するために、オランダの芸術家ピート・モンドリアンの作風からインスピレーションを得た画面分割と色使いを採用した」とウツコさん。モンドリアン調のリズミカルでモダンなテイストと、古典的な趣のロゴが織りなすコントラストは知的な印象を与え、斬新さと昔ながらの装いの両方を色濃く残す。これが、彼が狙った折衷主義だ。
ちなみに、このロゴをデザインしたスペインのデザイナーLaura Meseguerは、自身のブログの中で「Tiempos Headline Black」と「Quarto Black」という2つの文字スタイルを折衷したフォントデザインについて、「基本に返ることをコンセプトにした」と語っている。実はこのQuarto Black、なんと1570年代初頭にフランダース地方でデザインされたフォントで、以来「オランダ的なテイスト」として広く愛用されていたらしい。

ウツコさんは、紙面に「余白を残す」ことも重要なルールのひとつとした。
「適度な余白があると紙面は風通しがよく見え、結果としてオープンで自由、そして現代的という印象を生む」
こんなところでも、彼が思うアムステルダムらしさが体現されていた。

21世紀の紙の新聞に必要なものとは?

21世紀の紙の新聞のあるべき姿とは?
ウツコさんは、自分にその問いかけを繰り返している。
「その前に、そもそも紙の新聞に存続する意義があるかを考える必要があるのだが・・」と苦笑。
だが、その答えはまだ出ていない。「ひとつ明らかなのは、紙の存続を考えるならば、デジタル版との明確な区別化が必要。掲載情報の区別化はもちろん、見た目や、情報を読むという”体験”にもだ。だからこそ、紙の新聞には古典的なタッチを残すべきだと、私は考えている」
多くの読者は、50歳以上が主流。大半が60歳以上だとも言われる中で、若い読者の獲得は各新聞社の重要な目標のひとつ。だがこの時に「若者はモダンなものが好き」というステレオタイプに陥ってはいけないとも言う。「調べてみると、若者は思いのほか古典的なものを好むことが知られている。だから、紙でもデジタルでも、若者向けだからといって、むやみに目新しいガジェット的なトリックを導入してはいけない」と、無策に若者にこびる姿勢にも一石を投じる。

Het Parool週末別冊版

オランダ人は、とにかく新聞好きだ!

世界各国の新聞をデザインする中で何か気づいたことはあるかと尋ねると、「オランダ人はとても新聞が好き」という答え。そして「とても頑固で会議好き」
「各問題をじっくりと検証し、着実に歩むという印象だ。その時々に全員が次々と問題点をあげてくるので、なかなか前に進まないと思うこともある反面、とてもクリアでわかりやすい。その真逆なのかアメリカだ。ブリーフィングはスムーズで、皆が”ファイン!”、”グレート!”を繰り返す。だが最後にどんでん返しがおこって多くの問題が一度に浮上してくる」
もうひとつ、「オランダやドイツを始めとする北ヨーロッパや北欧の新聞媒体は元気。アメリカや東欧ではより苦しい」という傾向もあるらしい。
「だが、厳しい状況の中でも顕著な進化は見られる。まだまだ新聞は存続できる!」と前向きに見ている。

1940年創刊の、レジスタンス新聞Het Parool

Paroolとは、「暗号」や「モットー」の意味。1940年、ドイツ占領下でレジスタンス新聞としてスタートした歴史を物語るネーミングだ。
2004年、同紙は国内の有料新聞としては一番最初にタブロイド判に転向し、各紙が後に続いた。
アムステルダムの地方紙だが、革新的で、デザインコンシャスという特徴は、全国に知れ渡っている。