Woudagemaal


この数日、オランダは大雨と強風に見舞われた。
特に北部の北ホランド州、フリースランド州、そしてフローニンゲン州では、時速100kmにも達する強風を伴う豪雨が続き、湖川の水位も大幅に上昇。その水位は過去14年間最高を記録し、堤防の決壊、破堤が危惧された。

そのため、フローニンゲン州一部地域では、住民や農家の家畜を緊急避難させたり、所定の干拓地に水を逃がすなどの処置がなされた。
運河の中に建つフローニンゲル美術館では、地下展示場の作品を上階に移して万が一に備えた。
フリースランド州の余剰水をアイセル湖に揚水するために建設されたワウダ蒸気式揚水場(=ワウダヘマール)は、この緊急事態を受けて1月3日夜に稼働を開始。9日まで稼働を続ける予定だ。
1920年、アイセル湖に面したフリースランド州レメルという町に建設されたワウダヘマールは、1998年、ユネスコ世界遺産に登録されている。アムステルダム・スクール派の美しい建築で、これまでに建設された世界最大の、そして現在でも稼働している唯一の蒸気式揚水場だ。

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重油を燃料とした揚水ポンプ装置が、毎分4000m3以上の水をアイセル湖に揚水する。
今回は1週間の稼働で、フリースランド州の湖川の水位を約30cm下げるのが目標らしい。
もしもこの数日に再び豪雨がくれば、フリースランド州にある所定の干拓地に水を逃がし氾濫原にすることもやむを得ないとのことだったが、幸いにも暴風雨は峠を越した様子。
かつては、年間50日から100日ほど稼働していたワウダヘマールだが、1960年代に建設された近代的な揚水場や水門の活躍で、近年では実際に揚水のために稼働することは希(年に2回、整備と訓練のために稼働させている)。通常の一般公開は通常2月から12月だが、揚水のために稼働している時は特別公開ということで、今回も4日からオープンしている。まだ冬休みということもあり、滅多に見ることのできないワウダヘマールの活躍ぶりをひと目みようと大勢の人が駆けつけていた。出来たばかりのビジターセンターで入場料を払い、揚水場に入るまでの待ち時間は1時間以上という混雑ぶり。

ポンプは、もくもくと蒸気を立て大轟音を立てながら揚水するのかと思いきや、案外と静かで、蒸気はほとんど上っていない。
それでも、隣町で稼働している近代的な揚水場だけではさばききれない余剰水をアイセル湖に流してフリースランド州を守るワウダヘマールの勇姿は迫力満点。この日のために念入りに手入れされてきた機械は、まさに究極の機能美だ。

今回の大嵐では、特にフローニンゲン州が大きな被害を受けた。
暴風雨は落ち着いたものの、破堤の危険はまだ去ってはいない。


1月6日には、赤外線カメラを搭載したF16戦闘機が被害の大きな地域の堤防の状況を調査した。
だが本格的な被害状況の調査は、とにかく堤防を圧迫している水を海に排出してから。
オランダの国土は約41、500km2、そのうち約7,700km2が湖川などの水。そして大規模な干拓事業を繰り返して広げてきた国土の4分の1は海抜以下。
こんなオランダを、3500kmの土堤を含む、全長14000kmの堤防・治水構造物が守っている。
今回は、数日豪雨が続いたこと、そして暴風の風向きが悪く余剰水の排出がスムーズに行かなかったことから、堤防は悲鳴を上げている。
すでに漏水している箇所もあり、砂袋や遮断シートで強化してしのぐ様子がニュースで流れている。

「世界は神が創造したが、オランダはオランダ人が創造した」とはよく聞く言葉だけれど、裏を返せば、天災による被害もまたオランダ人の責任ということだ。
例え事態が「想定外」だったとしても、想定しておかなかったオランダ人が悪い・・ということになる。
だから、、、というワケではないだろうが、こと治水事業においては都市部での1万年に一度クラスのレアリスクに備えているというから心強い。
とは言え、どれだけ手を打っておいても、「想定外」を完全にシャットアウトすることができるはずはないのだ。